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外部環境の変化がもたらす企業収益への影響
1. 分析の背景・目的
日本銀行は、2024年3月にマイナス金利政策の解除を決定し、同年7月には政策金利を0.25%に引き上げ、更に2025年1月には0.5%への引き上げを決定した。これにより、我が国経済は「金利のある世界」に回帰したといえる 2 。
政策金利の引き上げは借入金に対する支払利息の増加・収益圧迫につながり得る 3 。実際に第1-1-13図で確認したように、2024年第4四半期の借入金金利水準判断DIは2007年と同等の水準まで上昇し、多くの企業が金利の上昇を実感していることが分かる。このように、政策金利の上昇による影響としては、短期的には借入金金利の上昇を通じた支払利息の増加が目立つが、中長期的に見れば、インフレ下で価格を柔軟に設定しやすい環境において、製品・商品・サービスに掛けた分のコストや生み出した付加価値を価格に転嫁しやすくなることで、思い切った投資・イノベーションや生産性の向上を促し得ることも指摘されている 4 。
本コラムでは、政策金利の上昇が企業収益にどのような影響を与え得るかについて、様々な仮定を置きながら分析した。分析に当たっては、先行研究 5 に基づき、可能な限り推計方法を簡素化するとともに、企業規模別に算出することを目的とし、「金利のある世界」における中小企業・小規模事業者の収益を推計することを試みた 6 。
2. 分析の概要
本分析の概要は、以下のとおり。
(1) 推計対象期間:2024年度~2027年度
(2) 推計対象:下記の2通りの状況を仮定して推計し、比較した。
①「金利上昇」ケース:2027年度までに、政策金利が段階的に1.5%まで上昇した場合
②「金利据置き」ケース:2027年度まで政策金利が0.5%の据置き 7 であった場合
(3) 企業規模:法人企業統計調査の規模区分に基づき、下記のとおり分類した。
①大企業:資本金10億円以上の企業
②中規模企業:資本金1千万円以上1億円未満の企業
③小規模企業:資本金1千万円未満の企業
※本分析における「中小企業」は、②と③の合計を指す。
3. 分析における推計方法、仮定
本分析では、2023年度の実績 8 を基に「経常利益」が政策金利の変動などの外部環境変化によってどのように推移するかを推計した。本分析における経常利益の定義は以下のとおり。
2 2007年2月、日本銀行が政策金利の誘導目標を0.25%から0.5%に引き上げた。その後、2008年に段階的に0.10%まで引き下げられ、2016年にはマイナス金利政策が導入された。2024年の引き上げは2007年の引き上げ以来、17年ぶりとなる。なお、2007年のような一時的な引き上げにとどまらないとの見方もあり、そうした「金利のある世界」は約30年ぶりともいえる。
3 (株)帝国データバンクは「借入金金利が1%上昇すると企業の7%が赤字に陥る」という主旨の分析を発表している(『「マイナス金利解除」と金利上昇に伴う企業の借入利息負担試算』(2024年3月))。
4 (株)日経BP (2024)、(株)日経BP (2025)
5 服部・有田 (2024)
6 本分析で用いた主な資料は以下のとおり。服部直樹・有田賢太郎編著『【展望】金利のある世界-シミュレーションで描く日本経済・金融の未来図』、財務省「法人企業統計調査」、経済産業省「企業活動基本調査」、内閣府「国民経済計算」「中長期の経済財政に関する試算(令和7年1月17日経済財政諮問会議提出)」、日本銀行「基準割引率および基準貸付利率」「無担保コールO/N物レート(毎営業日)」「外国為替市況」ほか。
7 2025年1月、0.5%への追加引き上げが決定されたことを受けて、このように仮定した。
8 財務省「法人企業統計調査」